浮気相手の職場に電話をしても問題ないか?
1 配偶者が不倫をしていたら
たとえば、夫の不倫が発覚した際に、妻が、浮気相手の女性に対する怒りのあまり、浮気相手の女性に復讐をしたいと考えてしまうことがあります。そして、実際に、不貞されてしまった側の配偶者が、浮気相手側になんらかの嫌がらせをするというケースは、しばしば目にすることがあります。
しかし、当然ながら、浮気相手だからといって、どんな制裁を加えてもよいというわけではありません。度を超えた嫌がらせをすると、かえって、嫌がらせをした側に不利にはたらくことがあります。
それでは、たとえば、浮気相手の職場に電話して、職場の者に不倫を暴露することは、法的に問題がないのでしょうか。
2 民事上の責任
浮気相手の職場に電話をして不倫を暴露することは、浮気相手のプライバシー権侵害・名誉権侵害となり、不法行為(民法第709条)が成立する可能性があります。
東京地方裁判所平成25年1月17日の裁判では、浮気された配偶者から浮気相手への不貞慰謝料請求訴訟において、浮気された配偶者が浮気相手の勤務先に対して電話をした行為等が浮気相手のプライバシー権に侵害等になるとして、反訴(被告から原告に対する訴え)を提起したという事件でした。
具体的には、浮気された配偶者が、浮気相手の勤務先のお客様相談室に、浮気相手が浮気が不貞していることを告げたり、お客様の声ボックスに不貞を暴露する内容の投書をしたりしたというものでした。
同裁判例は、上記の行為が、浮気相手の名誉権侵害になり不法行為を構成するとして、慰謝料を10万円としました。
同裁判例のように、浮気相手の職場に電話して不倫を暴露すれば、かえって不貞された配偶者のほうも、浮気相手に慰謝料を払わなければならないことになりえるのです。
3 刑事上の責任
浮気相手の職場に電話をして不倫を暴露する行為には、名誉棄損罪(刑法230条)が成立する可能性があります。
名誉棄損罪は、「公然」と事実を適示し、人の名誉を棄損したときに成立します。
「公然」とは、不特定または多数の者が認識しうる状態のことをいいます。実際に認識することまでは必要ありません。また、伝達対象が少数でも、事実が広まってしまう可能性があれば、「公然」といえると解釈されています。
「棄損」とは、被害者の社会的評価が低下する危険が生じたことをいいます。現実に社会的評価が低下することは必要ではありません。
このような名誉棄損罪の要件を前提とすると、浮気相手の職場に電話して不倫を暴露する行為は、多数の職場の者に伝えずに1人だけに伝えても広まってしまう可能性があり「公然」と、といえそうです。また、浮気をしているということを他人に知られれば、浮気した配偶者の社会的評価は低下する危険性があります。したがって、名誉棄損罪が成立する可能性があります。
名誉棄損罪の法定刑は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金とされています。
3 まとめ
配偶者が浮気していると分かったときには、感情的になってしまい、極端な行動をとってしまいがちですが、それが民事上・刑事上の責任に発展してしまいかねません。まずは感情を抑えて、冷静かつ法律に則って対応することが重要ですので、弁護士に相談し、法的に正しい方法で対処しましょう。